それが問題さ

充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない A.C.クラーク
 

元旦付けの朝日新聞の科学面で、毛利衛氏が「子ども達は学校の教科としての「理科」からは離れているかもしれないが、科学離れはしていない」と記しています。多分、その通りだろうとは感じます。そして、それが問題なのです。 毛利氏は上の言葉に続けて、小学生が二足歩行のロボットを見たときや、空中に物体が浮き上がる超伝導のデモンストレーションで中高生が夢中になることを記し、子どもは面白いものには飛びつくと書かれています。

確かにそのとおりです。でも、二足歩行のロボットは小学生が自ら作ることのできない魔法の世界です。また、超伝導にしても、その原理を中高生が理解することは困難な世界の話です。それらに興味を持つのはいいのですが、それを理解するための基礎となるはずの学校の理科は、残念ながらそれらに比べて面白いものではありません。その結果として、面白い科学マジック体験は、学校のつまらない理科から子ども達を引き離す働きをする危険性があります。

もちろん、二足歩行のロボットのパフォーマンスの中に、安定して立つためには重心の制御が必要であるとか、関節を動かすためにはどのような機構を作るべきかというような、何らかの思考の糧になるようなものが含まれているのなら、それなりに肯定をしてもよいかと思うのですが、一度見たことのある、未来館のパフォーマンスでは、そのような要素はまったく存在しなかった記憶しかありません。
また、高校生に超伝導による磁気浮上を見せて面白がらせるのは良いのですが、その前に、磁石間に力が働くことの不思議さを感じさせてあげることの方が、はるかに彼らにとって価値のある経験になるのではないかという気がしてしまいます。どうも、青少年に「科学」を見せることに熱心な人々は、超伝導とか全反射とか、毛先の変わったことを見せるのが科学教育だという根本的に間違った考えを持っていることが多いように感じられます。そして、それらの人に共通するもう一つのことは、生じた現象に対して安易な説明を付け加えがちであるということです。

多分、こうした人々の言い訳は、「まず興味を持たせることが重要だ」というものであろうと思います。確かに、興味のないことに人は近付こうとはしません。でも、見た目に面白いことを見せることによって生じる興味は、決して科学への興味ではなく、手品や魔術への興味により近いものではないでしょうか。クラークも言うように進歩した科学は魔術と区別がつかないもので、よほど注意して見せない限りは子どもにとって科学に接することにはならないのです。

そもそも、科学の楽しみは自分の頭で考えることにあるはずです。試行錯誤をしながら、自分の考えを整理して行くところにあります。ですから、科学への興味を引き立てるのでしたら、必ず、自分の頭で考える方向に誘導するものでなければならないはずです。さて、ロボットのパフォーマンスを見ることが、自分の頭で考えることにどうつながるのでしょう。そして、それまでに習っている学習内容では理解する手がかりさえない超伝導による磁気浮上を見せることがどこで自分の頭で考えることにつながるのでしょう。海外に仕事で行ったときに、空き時間に子ども向けの科学館に行ったことがあるのですが、その時に強く感じたことは、海外の科学館の方が、考えないと楽しめない展示が多いということです。例えば、「ドアがしまる」とか「スイッチを入れる」といったいくつかの条件を記したブロックをandやorの部品で繋いで、その先に「電灯がつく」とか「ブザーが鳴る」といった結果に接続すると、ミニチュアの家の模型で、その条件に従った動作が生じるような。それに対して日本の科学館はガチャガチャとしていれば何らかの動きがあって、頭を使って考えなくても、なにか楽しめてしまう展示が多いように思えます。

もちろん、直ぐに理解出来ないからといって、科学につながらないということはなく、深いところで科学につながる場合もあります。確かに、毛利氏は自らの体験として日食を見て「人間の手に負えない、何かすごい力が自然にはある、それをもっと探ってみたいと感じたと記しているように、深い自然への畏敬の念が科学への心を育てることがあります。
ですから、ロボットのパフォーマンスにも意味があるのかもしれません。もし、それが深い自然への畏敬の念を抱かせることが出来る物であるのだとしたら。

科学」と称するものを子どもに見せるという大人の自己満足を卒業して、学校の理科を学ぼうという気持ちになる、科学につながる道を子どもに示すには何ができるかを、自分の頭で考えはじめるべきではないでしょうか。それは、「科学」を子どもに見せるより、はるかに手間のかかる作業ではあります。でも、大人が自ら成長するとともに、自ら考えようとする人を育てるのには必要なことだと思います。
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by zam20f2 | 2011-01-02 10:51 | 文系 | Comments(0)
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