にわか地震談義(2)

ここから先は、完全に素人の床屋談義未満の話になる。



今回地震を起こした場所は日本海溝側の太平洋プレートの沈み込み場所付近である。ところで、今後30年以内に震度6以上の地震が来る確率の図を見ると福島から茨城にかけての海岸線は極めて確率が低い地域となっている。

この地域は日本海溝の沈み込み地域であるにもかかわらず、巨大地震の確率が低いと見なされているのは、日本海溝側では巨大地震が生じないと思われていたためのようである。その根拠の1点めは、歴史的に巨大地震が少ないこと。南海トラフ側では周期的にM8クラスの地震が発生しているのに対して、福島沖では巨大地震が歴史的にあまり見られていなかったようである。この違いに対して、南海トラフ側では、海溝に堆積物が多く、プレートの沈み込みに対して潜り込んだ堆積物が粘着剤の役割をするために、断層が固着して巨大地震を発生させるのに対して、日本海溝側では海溝堆積物が少なく固着剤がないために、小さな地震が繰り返し生じるが巨大地震は発生しないという説明がなされていたようである(「付加体と巨大地震発生帯」の最初の章)。

今回の地震により海溝の堆積物は巨大地震を発生する原因にはなっていないことが明確に示された。地震学者は海溝における地震モデルを再検討する必要が生じるのだろうと思う。
また、今回の地震の震源域が空白域とは見なされていなかったことである。地震活動は地殻の歪みが蓄積されそれが許容量を超えた場合に地震活動により歪みが解放される。活断層の活動履歴や測量などから歪みが蓄積されていることが知られているにもかかわらず地震が発生していない領域は地震の空白領域として、地震の発生が警戒されることになる。たとえば、上述の地図で糸魚川-静岡構造線に沿って危険地帯が上に伸びているのは、1000年は動いていない大きな断層の存在が知られているためである。

それに対して、福島・茨城の震度6弱以上の地震確率が極めて低く見積もられていたのは、上述のように、この領域では歪みエネルギーが比較的小さめの地震で継続的に放出されていると思われていたためだと思う。これが地上なら1000年に一度動くレベルの活断層も見いだされるので、判断も異なった可能性があるけれども、残念ながら海底のため活断層の存在は知られていなかったということになる。このことは、今回の海域以外でも、地震が発生しないと考えられている領域が単に繰り返し周期が長くて地震発生地帯と認識されていない場所であるに過ぎない可能性を示唆している。

もっとも、今回の震源については、近年になって、貞観地震の存在が認められるようになり、繰り返し周期も600-1300年程度であることは示されていた(澤井他、活断層・古地震研究報告 7, P47(2007)状況下では、少なくとも東京電力は想定される津波や地震に対する見直しを行っているべきであったと思う。

ところで、太平洋プレートの移動速度は分かっているので、単位年あたりの蓄積エネルギーは計算できそうな気がする。それが小規模な地震により緩和されているかの計算も可能だと思うのだけれども、エネルギー収支の計算はされていなかったのだろうか。あるいは、低摩擦ということで、エネルギーが蓄積されていないという計算になっていたのだろうか。今回の地震で、牡鹿半島を初め、随分と東方動いている。当然、その分は平常時には西方に移動しているはずで、それをチェックすれば歪みが蓄積されているかは確認できたはずだけれども、その計測は行われていなかったのだろうか。もっとも牡鹿半島の移動距離の5mを1000年で割ってしまうと1年あたり5mmなので、あまり目立たない数値なのかもしれないけれど。ちなみに、茂木は「とらわれずに考えよう」の中で2004年の十勝沖地震について触れているのだが、この地震は千島海溝と日本海溝の会合点で生じており、1952年、2003年とほぼ同じ震源領域でM8クラスの地震が起きている。茂木は、これらの地震に先立って、プレートの先方で、M7クラスの深発地震が発生していることを前兆現象として示している。今回の地震に関しても、同様の深発地震が生じているのかは、確認していないが、この記述からすると、ある震源領域で、50年あたりM8の歪みエネルギーが蓄積することを示している。別の言い方をすると、1000年あたりでM9程度の歪みエネルギーは蓄積できることになる。十勝沖は千島海溝と日本海溝の接続で、特別かもしれないが、太平洋プレートの潜り込みが歪みを引き起こすとするなら、日本海溝沿いでも同程度の速度でエネルギーが蓄積されると考えて良いと思う。すると、福島沖などで生じるM7級の地震は、エネルギーを解放するためには、殆ど役に立たない規模であり、エネルギーは蓄積されていたというのが現時点から考える宮城・福島沖の状態だろう。

今回の地震に伴って、陸地が東方に動くと共に最大で1.2m沈降した。これは、個人的には非常に驚いた事である。というのは、今回の地震はプレートの沈み込みにより歪んだ陸地が歪みエネルギーを解放して生じる逆断層タイプのもので、このタイプでは、陸地側が隆起するものと思い込んでいたためである(茂木1970という引用が「とらわれずに考えよう」の中にある)。実際、関東大震災では房総や横須賀半島が隆起しているし、東海地震でも浜名湖付近が隆起して入り江から湖になった事がしられている。この他室戸岬や、東北でも三陸の北側には海岸段丘があり、地震による隆起が起こっているはずである。それにもかかわらず、今回の地震は地盤の沈下を引き起こした。津波の解説でTVに出演した都司氏が津波が引いていない事から地盤の沈降の可能性を指摘したときには、何を言っているのだろうと思ったのだけれど、その後の測量で確かめられてみると、さすがに本職だと感じる。都司氏によれば、南海地震で高知県でも地盤が沈降したことがあり、その時には1年程度で沈降量の半分程度が隆起したという。しかし、地震後に牡鹿半島はさらに東に移動しており、移動傾向からして沈降も続いているように思う。

プレートの沈み込みにより発生しているにもかかわらず、陸地側が隆起する場合と沈降する場合があるとすると、両方の地震では発生するメカニズムが異なっていると考えるのが自然であろうと思う。両者の違いは非常に単純には地震により生じる逆断層の滑り面の角度の違いではないかと思う。CMT解をどうやってみるのかがよく分かっていないのだけれど、断層の滑り角は水平線に対して10度程度と非常に小さな角度のようである。一方、岩石を1軸圧縮をかけた場合には、破断面は圧縮軸に対して45度の角度で生じることが知られている。海岸線が隆起する地震の断層滑り面角度を調べていないけれど、45度に近い角度の逆断層なら、地震にともない地殻が隆起するのは容易に理解できる。
この、検証する努力もしていない適当なアイデアに、僅かでも真実が含まれているなら、100年程度の周期で生じる海岸線が隆起する地震と、1000年程度周期で生じる海岸線が沈降する地震では、発生機構が根本的に異なっており、一方の存在から他方を議論することは困難である。現状で、海溝に堆積物が多い沈み込み部分でも、堆積物が少ない沈み込み部分でもM9レベルの地震が確認されており、これからすると、両者の違いはM9レベルの地震発生の有無ではなく、M8程度の地殻の大きな隆起を伴う地震の有無である可能性が考えられる。堆積物が沈み込みに巻き込まれて形成される地殻(付加体)が脆弱なため、プレートの圧縮にまけて45度逆断層を形成するのに対して、付加体がない場合は、そのような逆断層が生じにくいと考えれば両者の違いは定性的に理解できる気がする。

地盤の沈降とあわせて、驚いているのが、地震後の余震の中に正断層タイプが生じていることである。正断層は地面に張力がかかった場合に生じる。余震を見ていると、今回の地震域の南北端あたりの余震は逆断層タイプがあるのだけれども、福島県の海岸あたりで発生したものは正断層となっている。このことは、現時点で陸上側の地殻に張力が働いていることを示唆している。実際、現在でも東方への移動は続いているのだけれど、それだけだと圧縮力の減少にともなう地殻歪みの低減で生じている可能性があるが、正断層の発生は、圧縮力の低下ではなく、張力が発生していることを示している。ということは、今回の断層の変位は力学的平衡点を超えて滑りすぎていて、その状態で断層が固着したことを示している。これは、地震動の3分程度の間に生じたことであり、地震断層における摩擦が、断層の動きにともない必ずしも低下はしていないことを意味しているように思う(低下しているなら揺り戻して平衡点に近づくはずだ)。いずれ、地震学者によって、このあたりの事情は解析されるのだろうけれど、「付加体と巨大地震発生帯」から受ける印象とは異なったことが生じている気がする。

というわけで、現時点で
・東日本の福島・茨城あたりの地殻は引っ張り張力が働いているっぽい。
・震源域の両端はまだ圧縮力が残っている。
・東日本が東方にずれたことによる影響が、どこかにでてもおかしくない
・ひょっとすると、プレートの沈降帯には、地震によって地殻隆起を引き起こすの地震とは独立に、引き込みを起こす、長繰り返し周期のものが発生しうる
などと思えている。その上で、関東あたりで何を考えるかはつぎに。
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by zam20f2 | 2011-03-27 09:38 | 科学系 | Comments(2)
Commented by 近くの人 at 2011-03-27 13:12 x
先日はていねいなお答えありがとうございました。
ところで,関東大震災でも沈降は確認されています。断層の近くで隆起,離れているところでは沈降という傾向です。今回の大地震(南海地震も同じ)では断層が遠かったので隆起が海面下で沈降部分のみが沿岸部で確認できたという可能性もあります。
Commented by zam20f2 at 2011-03-28 21:06
関東大震災の内陸部の沈降のことをお教え頂き有難うございます。頭の中では、10度の滑り角だと、逆断層でもそれほど隆起できない(ので、大きな隆起が見られるのとは断層の出来方が違う)かと考えたのですが、正弦は0.17あるので、10度の断層が10m滑れば1.7mくらいは隆起してもよいわけですね。それにしても、気象庁のデータを眺めると、海溝型地震でも正断層タイプもあり、一般向けの地震の本に記してあるのでは説明のつかないようなことが生じているのだと感じています。
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