これが、少年技師のハンドブック版、望遠鏡と顕微鏡の作り方。タイトルこそ、望遠鏡と顕微鏡だけれど、顕微鏡は本の付け足しみたいに後ろの方にあるだけだ。なにしろ、望遠鏡が自作である程度は高級なものが作れるのに対して「所が顕微鏡に至っては私共の手ではとても高級品どころか実用品に近い物を作ることができません。」という次第なのだ。ところで、その望遠鏡の方はといえば、基本的にはレンズは購入して、鏡筒を作るという工作が中心。反射鏡を磨くという、天文少年が一度は試みたか試みようと思った話は出てこない。というわけで、本文の紹介はしないのだけれど、前書きと、中に2箇所ほど、気になった場所があるので、その話を。 先ずは、前書き部分だけれど、 「私の父は六十歳をこえた少年技師です。そして私もまた何歳になっても少年技師でありたいと感じています。私の最も敬愛する田口武二郎先生も同様に我々少年技師の一員でいられると信じております。 ここまで読んで下されば私のいう「少年技師」なる言葉の意味がおわかりになると思います。 何歳になっても少年の日と同じように、若々しい純な気持ちで科学を研究していける人、それは科学を職業とする人という意味でなくて、何の仕事に従事していても、一寸の余暇をさいて科学研究の歩みを続ける人、そのような意味での少年科学技師、工作技師があまりに日本に少ないことを悲しいと思います。 数年前まで、私は米国にいる叔父から科学工作に関連した雑誌を送ってもらっておりました。それを読んで米国には、私のいうような年とった少年技師が非常に多いことを知って大変うらやましく思っていました。 少年時代は科学をつかむに最も鋭敏な感覚を持っております。この時代に点火された科学探究の火を、いつまでも燃やしつづけて行っていただきたいのです。 大人になるととかく雑事に追われ、少年の日の感激がいつの間にか消えて、ただもう生活のことしか考えない平凡な人間になってしまうというような経路を通る、一時的な少年技師がずい分多いのではないでしょうか。 」 と少年技師の定義から始まって、年とった少年技師が極東の島国には少ないことを嘆いている。この状況は現在も変わっていない印象がある。もちろん、極東の島国にも、少年技師がそのまま大きくなったような人も居て、そうした人々のWebにはワクワクするような内容があるのだけれども、私のいい加減な記憶によると、極東の島国の大人のサイエンスリテラシーは文明国の中では低位にあるはずで、多くの大人が科学ニュースには一時は熱心に反応するものの、きちんとその内容を理解して生活の中で楽しむような状況にはない状況にある。 そして、このことと関連するのだけれど、この本の中に 「 天体望遠鏡の外観は何となく人の興味を引くものでどんな不思議な世界が見えるのだろうかと誰しも一度はのぞいて見たくなります。ところがそて実際にのぞかせてやると、案外つまらないものだと失望する人が割合に多い。 月と、土星、木星などは大変珍しがって見るけれども、天体観測を趣味とする人が一番面白いと考える重星をレンズに入れて見せてやると、「こんな小さなものばかり見るんですか。」などと、何か途方もない大きな星でも見えなくてはつまらないといったような顔をした人、も何度か会いました。 考えて見ると、天文についての知識は他の学問に比べて普及が甚だしく遅れているようで、前記のような珍問答が行われるのは無理のない話かも知れません。しかし、これから育つ少年たちもそれと同様であっては困ります。 中略 結論として私の申したいのは、天体観測は好奇心を満足させようという気分でなくて、順序正しく学問を学ぶ態度で行くことが一番面白いのだ。ということなのです。そしてそれが科学的観察力の鍛錬ということにひとりでに役立っていることを忘れてはいけません。」 という記述がある。 このブログでも、これまでに、「子供の目がきらきらする」だけの科学教室の存在意義については、疑問を投げかけている。統計調査により、小学校程度では理科好きがそれなりの数がいるにもかかわらず、中学から高校で理科嫌いが増えることが分かっている以上は、問題点は中学から高等学校にかけての理科離脱をどの様にすれば防げるかで、そのためには、小学校以下の子供の目を輝かせても無駄であることは、目をきらきらさせる科学教室の数が増えているにもかかわらず、理科嫌いが増えている状況を見れば、自明のことであり、それにもかかわらず、中学から高校での理科教育に目が向いていかないのは、理科教育をやっている人が実際に起こっていることを観察して、その上で必要なことを考えて行うという科学的な思考なしに行動しているという、冗談としか思えない状況となっている可能性がある。
by ZAM20F2
| 2013-08-15 07:08
| 文系
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