全国学力テストで静岡県の成績が悪かったらしい。これを受けて静岡県知事が紆余曲折の後で成績上位の学校の校長名を公表した。その報道を聞いて不思議な事をする人だなぁというのが正直な感想だった。
ある地域の学力に問題があるとしたら、それは教員の個々人としての問題よりも、その地域にシステム的な問題があると考えるのが当然の発想である。これが一つの学校だけの問題だったら、局所的対応でこと足りるはずだけれども、今回の件はかなり広い地域に亙ってのことだ。だとすると、全体を指揮する立場にある人間がすべきことは、システムの問題点を見つけ出して現場がうまく動くようにシステムを改変することであるはずだ。 というわけで、別に静岡県に関係があるわけではないのだけれど、全国学力テストで上位にある秋田県と何が違うのかを調べるために、両方の県の教育委員会のWebや総務省の統計資料を覗いてみた。 統計資料によるとH23年で全国平均で小学校1校あたりの在籍者数は300人強、そして、教員1人あたりの児童数は16人程度だ。それに対して秋田県は210人、13人。静岡県は400人と18人。いずれも秋田県は平均より少なく静岡県は平均より多い。教育委員会のWebを見ると、秋田県は小規模校でもうまく学力が保てるように教員を加増する傾向があるのに対して、静岡県では統合(大規模化)した場合の運営補助に教員を加増する傾向がある。秋田県が地域を大切にしているのに対して静岡県は効率を優先している印象だ。 そして、児童一人あたりの教育費を比べてみると平成21年の資料で、小学校では、全国平均で在学者1人あたり90万円であるのに対し、秋田県は110万円と余計にお金を使っているけれども、静岡県は77.6万円と下から3番目だ。ちなみに、最下位は神奈川の76.6万、続いて埼玉だ。 これら2つの統計資料から、静岡県では全国平均以上の生徒が集まったざわざわした学校で、多くの児童を抱えて余裕のない教員が、学校運営に当たっているという図が見えてくる。もちろん、生徒1人あたりの教育費も少ないので、いろいろなサービスも行き届いていないであろう。 その静岡で何を目指した教育が行われているかというと「有徳の人」の育成らしい。有徳の人がなんなのかはよく分からないけれど、関連して道徳教育の推進が行われているので、静岡県としては学力よりも道徳を重視する教育を行っていると考えられる。もちろん、学力も無視はされてはいないが、H25年レベルで「教科指導の充実に向けた取り組みの検討等」がお題目にあがっているぐらいだから、どう考えてもこれは有徳の人よりも下のレベルで、JR北海道の線路幅異常ではないけれども、他の大切な事のために後回しにされているレベルのようだ。 というわけで、静岡県の小学校が学力テストがふるわなかったのは、大人数の学校で、生徒1人あたりの予算が少なく、また多くの生徒を見なければならない教員が、有徳の人教育に追われて、ペーパーテストの学力を上げることに手が回らなかったのが原因である可能性が高く、現場の校長には責任はなさそうだ。 そして、静岡県として「有徳の人」の育成を目標に掲げるなら、それとは無関係な全国学力テストの結果などは、鼻でせせら笑って、「あんな学力テストは生きるためには意味がない」などと言っていればよいはずだ。それを有徳の人を言い出したはずの知事が問題にするのは、非常に不思議な行為と言わなければならない。話は変わるが箕面市の部長ブログの中で、子ども未来創造局の大橋さんは、秋田県由利本荘市への視察を行う理由として 「今も佐々田教育長は、暇さえあれば学校へ赴き、子どもたちの様子、授業の様子を見て回られています。また、教育委員会の猪股委員長をはじめ、教育委員のみなさんも、すべての小・中学校の授業参観を行い、学校現場との意見交換を頻繁に行うなどされています。 まさに、教育委員会、事務局、学校現場が有機的・実体的に結び付き、組織的に学校教育が進められています。」 と記している。システムの責任者が現場をきちんと知ることの重要性が指摘されている。静岡県知事は現場をどの程度知っているのか興味のあるところだ。 校長の名前を出すことにより、現場は右往左往して、短期的には学力テストの成績は向上するかもしれない。でも、それは、さらなる現場の疲弊をもたらして、そうでなくても、不祥事続きの静岡県教員がニュースを賑わす頻度が増えることになるであろう。
by ZAM20F2
| 2013-09-23 08:45
| 文系
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Comments(2)
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のり
at 2013-11-23 00:42
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いつも楽しみに拝見しております。
この記事は何度も読み返しました。読むたびに感銘を受けます。 長崎県で小学校の教師をしています。 教師生活33年目ですが,毎日悩むことばかり。 学力テストに関してもいろいろ考えてしまいます。 示唆をいただきました。ありがとうございました。 これからも楽しみにしています。
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ZAM20F2 at 2013-11-24 17:34
コメント頂き有難うございます。学力テストの問題についても、学力テストでよい点をとることが、子どもにとってどのくらい良いことなのかが(その準備に時間を使えば、他のことが出来なくなりますから)議論されないままにすすんでしまいますよね。小学校の教育には関わりはないのですが、参考になることが含まれていれば幸いです。
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