そして、午後8時の「友よ」

大昔に小型のガリ版刷りの一式を持っていた。母が買ってくれた物だけれど、何でそんなものを買ってくれたのか記憶にないし、今はもう捨ててしまったのだけれども、印刷好きなのは、その影響があるような気がする。
で、本屋で見かけて買ってしまったのが
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だ。それにしても、最初の頃はロウ原紙をはるスクリーンがなかったとは知らなかった。ガリ版、あるいは、もう少し正式にいうなら謄写版は孔版印刷の一種で、ロウ引きをした紙を平板ヤスリの上に置き、鉄筆で文字を書くとヤスリ目間隔の微細な穴がロウ引き原紙にあいて、それをスクリーンに張って上からローラーでインクを供給しながら下の紙に押しつけると、穴を通して印字が出来る仕組みだ。

今でこそ、小冊子というとコンピュータからの打ち出しをコピーで増やすのが主流だと思うけれども、20世紀も最後の15年に達するくらいまでは、普通の人が活字のような文字の印刷物を出すのが非常に困難な状況であった。と云うわけで、簡単な印刷物はガリ版刷りだった。ガリ版の原紙はロウ引きの紙をヤスリの上で切っていったと記したけれども、70年代にはボールペン原紙といって、ヤスリが必要なくボールペンで書き込める原紙ができていた。ただし、ボールペン原紙の文字はロウ引き原紙に鉄筆で書いたものより太くなってしまうので、ロウ引き原紙を切れる人はそちらを愛用していた。一部には謄写ファックスといって、2連のローラーの一方に白い紙に黒い文字を書いた原稿を、もう一方のローラーに謄写原紙を巻いてスイッチを入れてローラーを回転すると、原稿のローラーの上をゆっくりと移動する光電検出器が黒い部分を感知すると謄写原紙側にセットした針から火花が飛んでその部分に微細な穴を開けていくという装置も存在していた。

印刷機の方は、古典的には四角い枠のスクリーンに原紙を張って上からローラーで転写するタイプだけれども、原紙をローラーに張ってローラー一回転で1枚の印刷された紙が出てくる輪転機タイプの印刷機も存在していて、数百枚単位の印刷では便利なものであった。

というわけで、引きずり出してみたのは70年代中頃のある高校の文化祭の後夜祭歌集。
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線の細さからすると、ヤスリをつかったガリ切りをしている。目次をみると
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と、なかなかに70年ごろのフォークがならんでいる。この歌集の時代にはこれらの歌はすでに少しばかり時代遅れになっていたけれど、それをおぼえてしまった為に、知っている歌の話になると、年を鯖読んでるんじゃないかと思われることがある。

その頃におぼえた岡林「友よ」は(岩谷「友よ」という歌もある)、中々景気のよい印象の歌で、時刻にすると天文薄明間近、冬だったら朝4時より後というイメージ。盛大に火を焚きながら、負ける気がしない闘いの前にスクラムを組んで歌う感じだった。
ずっと、そういう感じの歌だと思っていたのだけれど、随分と後になってご本尊が歌うのを初めて、それも生で聞いて、時刻を間違えていたのを認識した。ものすごくスローなテンポで「夜明けは近い」から始まった歌は、絶望的な闇の前で心が折れかけている友人を励ますことによって自分の心が折れるのを必死で防ごうとする人の歌。時刻にすると、まだまだ宵の口、午後8時ごろ。これから続くであろう長い闇夜を前に重圧に耐えている人が目に浮かんでくる。
きわめて現代的な歌であるような虞を抱いている

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by ZAM20F2 | 2014-07-01 22:28 | 文系 | Comments(0)
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