蝶・サナギの謎 平賀壯太 トンボ出版 2007年

この本は、リタイアした生物学者が中学校の時の勝手研究の続きを行ったもの。この本の存在は、ある高校の先生に教えてもらったのだけれどパラパラっと見て速攻で買い込んだ。
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研究の内容はアゲハチョウのサナギの色が何で決まるかというもの。著者は中学校の時にサナギになるときの周囲の色調が影響するのではないかと思い、周りを色々な色で囲ってサナギにしてみたけれど、影響がないことだけがわかり、研究は中断されていた。

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ここまでのストーリーで、すでにワクワクしてしまう。というのは、研究の過程で分からなかったことを忘れてしまうのではなく、頭のどこかに引っかけておいて、ある時に戻ってきたり、アイデアを思いつくのは研究者だったら経験したことのある話だろうと思うからだ。適当な仮説を立ててやりっぱなしで満足してしまうのでない執念深さみたいなものは研究者の一つの習性ではないかと思う。

さて、平賀さんはリタイア後に改めて研究を行っているけれども、最初にやったのは中学の時の実験の再確認的なもの。

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いくつかの色紙の上で、色の変化が影響をしないであろうことを再確認している。下の図を見れば、決して一つのサナギで確認しているのでなく、複数のサナギで、傾向をつかめるように実験を行っていることが分かる。

続いて、色ではなく、サナギになる時の台紙の凸凹さの影響をみている。これは、葉っぱの上でサナギになる場合と幹でサナギになる場合の違いから考えていたようだ。結果は光沢紙では緑が多いのに対して、ざらざらした濾紙だと茶色が優勢で紙やすりだと茶色が完全に優勢になる。

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この結果を見ると、サナギになる時点での表面のざらざらさがサナギの色を決めているように感じられる。ところが、平賀さんはこれに続いて、サナギになる時点でエサとなる草を入れておくと、どうなるかの実験を行っている。

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平賀さんは、この他にもサナギになる時点での明るさの影響も調べている。凸凹さという決定的に見えるような要素が分かった上で他の要素を検討する意味があるのか不思議に思う人もいるかもしれない。しかし、物事が単一の要素で完全に決まっている場合は必ずしも多くはなく、複数の原因が積み重なって物事が生じていることが結構ある。生物ではなく化学や物理系の実験の誤差も複数の原因から出ていることが多く、一つの原因を発見して満足してしまうと、大きなミスをすることがあるのだ。

エサとなる草の影響がわることが分かった後で、平賀さんは要因の細分化を行っている。もともとは草の匂いの影響を考えるために行ったのかもしれないけれども、葉を密閉容器に入れると、湿度が上昇するし、また光の弱い状況下では植物の呼吸により二酸化炭素濃度が高まる可能性がある。そこで、湿度を変えた状況下でサナギをつくらせることっと、一定の二酸化炭素濃度下でサナギをつくらせるとどうなるかの確認を行っている。二酸化炭素濃度を一定にするために、平賀さんは、その辺には転がっていないような業務用の装置をつかっているけれども、それ以外は基本的には普通の人が手に入れられる道具で研究を行っている。


平賀さんは続いて観察した結果をまとめて、その上でアゲハチョウのサナギの色を決めている機構についての仮説を考えている。仮説を考えるにあたっては、観察結果に加えて、蝶の生理に関する知識も活用している。仮説は単なる思いつきではなく、ある程度の観測事実と整合し、かつそれまでに得られた知見とのすりあわせも行われたものであることが示されている。

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ここまでの紹介を読んで、仮説がそれまでの実験結果と整合するなら、それらで仮説は実証されたのではないかと考える人もいるかもしれない。しかし、平賀さんは、この後で、それぞれの影響の強さや、どの段階で影響が生じるのかなどを検証していく。もちろん、検証の過程で、仮説では説明できないことが生じていないかのチェックも怠らない。この本は、まさにきちんとした研究の進め方を示している。

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この本の研究の進め方は、当たり前だけれども、科学の進め方のルールを知っている人によるものだ。ここまできっちりした流れの研究を中学生が行うことは困難だろうと思う(平賀さんも中学の時には出来なかったわけだし)。しかし、ここで示されている仮説の立て方や論理の進め方は,中学生にも理解できるものだし、不充分だったとしても試みられる子もいると思う。




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by ZAM20F2 | 2014-08-17 11:17 | 科学系 | Comments(0)
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