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小刀 無銘 桜上水 野鍛冶

三鉄の小刀が何処でつくられたものかは知らないけれど、かつては都内にもずいぶんと鍛冶屋があった。多くは包丁やら大工道具などの鍛冶だと思うのだけれど、甲州街道を新宿から少し下って、水道道路と交叉するすこし手前あたりまで行けば鋤やら鍬を作っている野鍛冶があった。ストリートビューで探しても、もはやその跡も定かではないのだけれど、甲州街道から北に延びる道の角に、店先にトラバサミやモグラばさみなんかがぶら下がった昔からの店が80年代にはまだ存在していた。

その店の存在を知ったのは、「御年90歳の現役の野鍛冶がいる」という新聞記事からだった。記事を頼りにたどり着いたお店には、90歳のご主人とそれよりは少し若い奥さんのお二人がいて、息子さんはみな他の仕事をされているそうで、その中のお一人が胃の手術を受けたあとらしく、奥さんは、戦争の終わりに捕虜になっていたときにコーリャンばかり食べさせられていて胃が弱くなったと嘆いていた。
その野鍛冶さんに頼んで打って貰った小刀、もちろん無銘
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お爺さんとしては小刀はもっと薄いもので、厚手のといったら「そんなの使いにくい」との返事だったのだけれど、お願いしたら打ってくれた。値段は4桁のどこかだったけれどはっきりとは、おぼえていない。

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すく時に表裏を間違えたのか、表側の真ん中が少し削った跡があり、それから、下側の端は地金が出ているのだけれど、無骨で農鍛冶さんがつくった感じがにじみ出ている一品。

名の通った鍛冶屋の刃物にはコレクションとして後世に残っていくものもあるだろうと思う。でも、多くの無名の、ましてや野鍛冶の刃物が記録に残ることはない。残念ながら90歳の鍛冶のかたのお名前を思い出せずに、そしてもとになった新聞記事を探し出せずにいるのだけれど、そんな人がいたんだよという記録に載せることにした。



by ZAM20F2 | 2014-09-02 21:14 | 物系 | Comments(0)
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