クラゲの構造発色についてのメモ

クラゲの中には水槽の中で光を放つものがある。光を放つといっても発光しているのではなく、照明光を反射している。
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この写真は今ひとつで、もっときれいな写真は「春夏秋冬」さんの水生動物雑記帳にある。
この手のクラゲが光って見える機構の解説依頼がコメントであり、コメント欄だけでは無理なので、記事として上げることにした。といっても、クラゲの色は専門外なので(世の中にクラゲの色の専門家が存在するか自体も興味あるところだけれど。食べることに関してはクラゲ普及協会なる組織があるようだ)、まずは頼ったのは、この業界の教科書「生物ナノフォトニクス-構造色入門-」(木下修一:朝倉書店)。でも、残念ながらクラゲに関する記述はなく、Web上も少なくとも日本語では、きちんとした解説が見当たらないため、憶測を交えての話になることはご容赦いただきたい。

クラゲと言っても、色素により発色しているクラゲもいるけれど、これから扱うのは色素ではなく、微細な構造により発色する構造色のクラゲである。この手のクラゲは櫛板という組織があり櫛板部分が発色する。それも静的ではなく動きに合わせて発色部分が動いていく。

クラゲの構造色については1次元の周期構造で回折が起きている回折格子タイプであるとされているように思う。CDなどが虹色になるのと同じ現象である。櫛板のところが光ることからすると、櫛板あたりに光の波長程度の周期構造が存在していることになる。
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ただ、ここで答を終わりにしてしまったら、質問を頂いた春夏秋冬さんの疑問には答えていないことになるだろうと思う。CDのような周期構造が虹色の原因なら、CDを傾けると特定の角度で虹色が見えるのから推測できるように、クラゲが向きをかえたら特定のところが虹色になると思われるけれども、実際には、クラゲ本体は向きを変えておらず櫛板が波打つだけで光る部分が動いていく。

また、回折格子の反射効率は(透過型でなかったら)回折格子の表面の反射率に依存するのだけれど、水中にいるクラゲでの櫛板と周囲の水の屈折率差は大きいとは思えず、そんなに反射率が稼げる気がしないのである。水の屈折率は1.33程度で、有機の共役をあまり含まない物質で1.5程度ではある。しかし、クラゲの体は水分を多く含んでいるだろうから、屈折率が1.33からそれほど離れられる気がしない。櫛板の屈折率を1.4とすると界面での反射率は0.07$%程度。櫛板の屈折率を1.5としても0.4%しかない。クラゲの背景がどの程度暗いかにもよるけれども、反射光はかなり弱い。

特定の部分だけ色がつく理由については、櫛板を動かす時に、その部分の体表を伸縮させていて、その結果として、光を回折できる間隔になるのではないかとも考えたのだけれど、それだけだと、反射光の弱さから、あんなには輝いて見えないような気もする。

櫛板の動きにともない光る場所も移動することと、単純に屈折率を考えると、あんなに光っていなさそうなことを考えると、櫛板にはもう少し秘密が隠されているような気がする。ここで思いつくのが回折格子のブレーズという芸である。
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図には単純な回折格子と、光のあたる部分を傾斜させた回折格子を描いている。単純な回折格子では、垂直に入射した光のかなりの部分は色が分かれずにもとの方向に戻り、回折した光も±1次から±2次と拡がっていくので、一つの回折光への光の分配はそれほど大きくはならない。

一方、右側の傾斜構造のある回折格子では、正面から入った光が反射して出ていく角度と、回折格子の回折条件が重なると、その方向に高い効率で光が出射する。クラゲが櫛板を波打たせて動いていると、ある瞬間には特定の領域の櫛板だけが、ここに記した傾斜構造の特別な回折格子の条件を満たす角度となることが考えられる。そうなれば、クラゲ全体の方向は不変のままで櫛板の一部だけが回折効率が高まって光って見えることが理解できる。

もし、櫛板部分の回折格子が透過型で機能しているなら、その時には櫛板部分とそうでない部分を抜けてくる光の位相差によって回折効率が定まる。この場合には傾斜構造を考えなくても、それなりの回折効率は実現できる。

※透過型の回折格子として働いているかどうかは、クラゲが正面からの照明で色づくのか(反射型)、後ろからの照明で色づくのか(透過型)で区別出来るはずである。春夏秋冬さんの写真は黒背景なので、色は反射型で生じていると思って大丈夫だと思う。





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by ZAM20F2 | 2014-12-08 21:15 | 科学系 | Comments(3)
Commented by kmitoh at 2014-12-09 06:23 x
 クシクラゲの虹色について、教えていただきありがとうございます。
 あとでゆっくり読み直して理解します。
Commented by ZAM20F2 at 2014-12-09 20:33
最初はCDと同じ回折格子で説明できると思っていたのですが、考えて見ると屈折率差があんまりないとか、一部だけ色が見えるのに理由があるはずだとか、決して単純な構造ではない気がしてきました。実は、きちんと測定や解析をしたら、随分と面白い構造が見つかるのではないかという気がしています。
Commented by ZAM20F2 at 2014-12-10 08:00
ご近所さんからメールで情報を頂き、それによると「ずかんプランクトン」によると反射とされているそうです。魚の銀色のように、海中でも銀色に輝く生態系有機物は存在するそうです。
一方、個人的に水族館でクラゲを眺めた経験からは櫛板の輝きは春夏秋冬さんも書かれているように虹色に着色しています。また、一つの部分の色が変わって見えるように思えています。これが反射板だとすると、ここのところ掲載しているような干渉フィルター構造があって、その向きが変わることにより色味が変わるという話になりますが、見ている限りで、それよりは広い波長範囲で色が変わっている気がしていて、それが、回折格子構造があるのではないかと思っている理由です。
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