誰が原子を見たか

山形浩生さん役の「ロウソクの科学」にファラデーによる後書きがあることは少し前に書いたけれども、その後書きの中でファラデーは「さて注意してほしいこと。ここでわたしは「原子」とか「分子」というのをはっきり持ち出してはいない。もちろんそういう概念は知っていたし、ふつうの科学者は原子とか分子が実在すると思っていたんだけれど、「見たことあんの?」といわれると困っちゃうし、ホントにそんな原子とか分子とかいうツブツブがあることをみんなに簡単に見せるのはむずかしかったからだ。その意味で江沢洋くんが「だれが原子を見たか」(岩波書店)でいろんな実験をやって、納得いく形で原子があるんだ、ということを見せようとしているのはおもしろいし、勇ましいなぁ。」と言っている。岩波科学の本シリーズは絶版になったけれどもこの本は岩波現代文庫に収められている。
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江沢洋さんは理論家で、フェルミみたいな例外はあるけれども、理論家には、そばに寄ってくるだけで実験が旨く行かなくなるという人も多いのだけれど、この本の中で江沢さんはいろんな実験を(協力者とともに)やって見せてくれている。
本はブラウン運動から始まる。
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ブラウン運動を発見したブラウンが使っていたのは単式顕微鏡で、その初代というべきレーウェンフックの顕微鏡を出しながら、ブラウン運動の話が進んでいく。
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そして、大気圧の話へ進んで行く。

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パスカルの実験の話なんかもあるのだけれども、峡谷にかかる橋を使って、10mの水柱をたてる実験なんかを行っている。
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この実験は補強の付いたホースと、アクリルパイプを使っている。身近にある物を組みあわせての実験、なかなかセンスがよい。その後、水銀を使っての実験もあり、実験後に水銀が漏れて噴水のようになっている写真も掲載されている。
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水銀は今では毒物に指定されているので、噴水になったら、えらい騒ぎなのだけれども、まだまだ時代が長閑だったわけだ。本はアインシュタインによるブラウン運動の理論で終わる。ブラウン運動から始まって、その理論で終わるというのは流れとしては良いのだろうけれども、そして、江沢さんは、どこで原子論に納得するかは読者に任されているというような書き方をしているのだけれども、物理屋さんの本だけあって、物理サイドの話題に限られているのは、少し片手落ちな気がする。
というのはアインシュタインの理論は20世紀になってからだけれども、ケクレによるベンゼンの構造提案は19世紀の話だし、19世紀の後半には化学者は分子量を決めるのに、物質を気化して体積を量るなんて手法をとっていた。化学の世界では、物質がツブツブで出来ているというのは(一部の物理化学者を除けば)常識であったように思う。化学屋さんと物理屋さんの解離は当時からも生じていたいのだろうと思う。
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by ZAM20F2 | 2015-07-11 22:31 | 文系 | Comments(0)
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