デジタルカメラは、赤、緑、青の3種類の色画素の信号強度を使って色彩を再現している。身の回りにある物体では、カラーバランスさえ取れていれば、色再現に違和感を感じることはほとんどないのだけれど、手作り分光器でのスペクトル撮影では、前のエントリーでも紹介したように、目で見た色調変化に比べると、露出量にも依存するが、緑から赤の変化が急激な印象がある。
どのように色再現を行っているかは、使っているカメラの3種類の色画素の感度分布が分からないと議論もできないのだけれど、メーカーからは感度分布は公開されていない。 されていないならはかってしまえということになるのだけれど、Webで調べて出てきたデジタルカメラの分光感度を測定した論文では積分球をつかった大掛かりな装置を使った測定で、どう考えても手持ち機材で簡単にやれるものではない。 どうしたものかなと思っていたら、手作り分光器を使っての簡易的な方法を試みたWebがあり、 データ的に上記の論文からそれほど悪くない結果が出ていた。これに力を得て、似たような方法でAir01の分光分布を測定してみることにした。RAW撮影をして、毎度おなじみのIRISでFITS化してデータ処理している。IRISでのFITS化は、昔にやっていたのだけれど、ひさしぶりにやろうとしたら、完全にやり方を忘れていて往生した。 右往左往して描いてみると、赤と緑の入れ替えは570nmあたり、緑と青は470nmあたりで生じている。黄色の再現が悪いことから思ったより重なり幅が広いが少し意外だった。 感光分布はシリコンの感光素子の上に色フィルターをおいて作られている。シリコン素子の感光分布が分かれば、色材の吸収スペクトルが決定できる。素子の感光分布は分からないのだけれど、一般に赤色フィルターはある波長より長波長は吸収がないので、ここはシリコン素子の感度分布を直接反映していると考える。それ以外の部分は、それぞれの色素の窓のところを使っていて、そこは吸収は弱いはずなので、緑とか青のピークのところは吸収がなく、シリコン素子のスペクトルを反映しているとして、適当な感度分布をでっち上げて、それをベースとして、赤、緑、青の感度を割り算して、透過スペクトルを描いてみた。 透過スペクトルが、1(吸収なし)で折れ曲がっているので、実際には信号強度が立ち上がっているところでも、多少は吸収が残っているのだけれど、全体の傾向はそれなりに見えていると思う。 赤については570nmより長波長側で吸収が一気になくなっていく430nmより短波長で吸収が減っていくように見えているけれども、これが本当に吸収が減っているのか、測定上の問題かは分からない。でも色材の吸収特性から考えて、短波長側のどこかで吸収が弱くなる領域があるだろうと思う。 赤は570nmより短波長で透過率が下がるものの、510nmあたりで僅かに透過が増えているような結果になっている。DNPさんのWebにC社のデジタルカメラにつかっているフィルターの透過スペクトルが載っていたのだけれど、それでも類似の構造が見られるので、この構造は正しいようだ。気分的には再低次の振動構造への遷移と、その上の振動構造への遷移の隙間かなという所だ。 緑は500nm前半の部分に透過窓のある色材だ。どんな物質を使っているか分からないけれども、有機系だったら、フタロシアニングリーン系かなぁと思うようなスペクトルだ。ただし、フタロシアニングリーンだったら、700nmあたりで吸収が弱くなることはないと思うのでちょっと違うかもしれない。 青は480nmより短波長は吸収がないことになっているけれども、これは、その領域のシリコンの感光分布を青色画素の感度をそのまま使っているためで、実際には短波長側で吸収があっても驚かない。なんかのフタロシアニンだろうか。 緑も、青も長波長側の吸収帯には終わりがあるので、近赤外領域には光が透過する波長帯があるはずだが、それについては改めて。
by ZAM20F2
| 2015-10-04 11:23
| 科学系
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