今でこそ、版組の修正はディスプレイ上で容易に行えるから、文書を修正する時に文字数の変化を気にすることはない。しかし、写真植字や活版印刷の時代には文字数が変化してしまうと、それ以降の部分が全面やり直しとなってしまうために、修正時には行内で文字数を変えないような工夫をすることが求められていた。
そんなことを思い出したのは、「少国民理科の叢書」の監修者の言葉の戦前版と戦後版を比べてみたからだ。
戦前版は
「少国民の皆様、私たちはこの度この「少国民理科の研究叢書」をそれぞれの専門の先生方」
と始まる。戦後版はこれに対して
「少国民の皆様、私たちはこの度この「少年少女理科の研究叢書」をそれぞれ専門の先生方」
と始まる。少国民と少年少女の違いで1文字増えた分を「それぞれの専門」の「の」を抜くことで合わせている。戦後版で書き出しが「少国民の皆様」のままなのは、シリーズタイトルが少国民から少年少女になったのに対応できていないのだけれど、ここも変えてしまうと、文字数の吸収が出来なくなってしまうためかと感じている。
もう一箇所変化したのは六行目で、戦前版では
「これがやがて君に忠義をつくし国に報ゆる」
が
「これがやがて文化国としての祖国に報ゆる」
と改訂されている。この行は、段落の最後で、「報ゆる一つの道であります。」と終わって、あと2文字は余裕があるので、+2文字、-方向は何文字でも文字数が変わっても問題ないはずだけれども、文字数はきっちりと同じに揃えられている。