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「科学大実験」の非科学性

NHK教育TVで科学大実験という番組をやっている。「誰もが当たり前と思っている自然の法則や科学の知識。 でも、それは本当なのだろうか? 答えは、やってみなくちゃわからない。大科学実験で。」という番組らしいのだけれど、「実験06「リンゴは動きたくない!?」」を見た限りでは、あきれはてたぐらい非科学的な内容で愕然とした。
テーブクロス引きを巨大化するだけの話なのだけれど、先ず、根本的に分からないのは、普通のテーブルクロス引きで示せることと、10mの大きさのテーブルクロス引きで示せることに、科学的な違いがあるのかである。慣性の法則を見せるというなら、両方とも同じで、10mのクロスを引く理由は一切存在しない。こんなことを書くと、10mでできるのが驚きだという人がいそうだけれど、それは、完全に非科学的な妄言で、普通のテーブルでも10mでも同じになるのが科学的な発想で、もし、両方で挙動がことなるなら科学的な大きな驚きなのだ。少しでも科学的な思考ができる人なら10mのテーブル引きを見て、無駄な実験と感じることはあっても、驚くことも感動することも(それには驚きが必要だ)ないだろう。
ついでに記すと10mのテーブルクロス引きの実験では1つ以上のコップが倒れていた。これは、テーブルクロス引きの常識から言えば失敗である。それを成功と言い張っていたけれど、これは完全に虚言である。こうなると、事実をきちんと評価しないという意味で非科学より反科学的であるとすら言っても良いだろう。
では、科学的なテーブル引きの実験はどうあるべきなのだろう。
番組の内容に即して考えるなら、テーブルクロスが大きくなると、テーブル引きが何故難しくなるのかというのは、科学的に検討する価値のある問題である。それを考えるヒントの一つは、10mのテーブル引きの映像の中にある。映像を見ると、奥の方の食器に比べて、手前の食器の方が移動距離が大きい。つまり、引き抜く布の長さが長いほど、引き抜き速度が同じ場合には食器の移動距離が長くなることを示している。これをもうすこし定量的に示すには、
1,引き抜き長さが同じ場合の、食器の移動距離の引き抜き速度依存性
2,引き抜き速度が同じ場合の、食器の移動距離の引き抜き長さ依存性
の2つを測定してグラフ化することが考えられる。これらの違いは、摩擦の効果が、時間と距離の積に依存するあたりから出ているはずだけれども、それを考えると、
3,引き抜き速度と引き抜き距離が同じ場合に、上にのせた物の重さを変えるとどうなるか(底面積は一定)
4,引き抜き速度と引き抜き距離が同じ場合に、上にのせた物の底面積をを変えるとどうなるか(重さは一定)
などという実験も考えられるようになる。さらには、用いる布の種類や食器の底面の状況による影響なんかも、面白い実験課題である。これらの実験を行うと、テーブル引きをやるのには、どのような組み合わせや配置をすればよいかについての、科学的な推測が可能になる。
これが、科学的な知識を伝える実験である。

それにしても、「誰もが当たり前と思っている自然の法則や科学の知識。 でも、それは本当なのだろうか? 答えは、やってみなくちゃわからない。大科学実験で。」というフレーズ、正気なのだろうか。法則や知識を得るために、どれだけの実験が行われてきたと思っているのだろう。このフレーズは科学に対するものすごい冒涜で、この番組の非科学性を象徴するものだ。
by zam20f2 | 2010-05-30 07:56 | 文系 | Comments(0)
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