国際成人力調査なるものが始まるらしい。いわゆる「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」の大人版である。その例題が国立教育政策研究所のWebに掲載されている。。調査項目は、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力の3項目で、ITを活用した問題解決能力の例題としては、「仕事探し」で検索して出てきた5つのサイトから、無料で登録の必要がないサイトをブックマークしろというものがある。検索結果画面だけでは、条件を満たしているのか分からないので、それぞれのサイトに入って、情報を収集して条件を満たすか調べることが求められている。PISAテストは単なる暗記ではなく、思考力や状況判断を求めるテストであることになっているけれど、その大人版でも、最近のバラエティークイズ番組にあふれているような、雑学的知識ではなく、実際的な場面に即した行動や判断力が試されるものになっている。
わけないよね。だってさ、普通の人は「仕事探し」で使うサイトを選ぶのに、そのサイトの評判等を確認することなく、登録の必要がなく無料であるという条件で選ばないと思う。逆に言えば、問題で示されているような手法をとる人がいたら、その時点で、かなり社会的IQに問題があると言わなければならないだろう。普通の人の手順を考えてみると、たとえば「仕事探し、無料、登録なし、評判」あたりを入れて検索をかけるとか、あるいはWeb検索をかける前に、知り合いに聞いてみたりするだろうと思う。そういう普通の人にとって、「仕事探し」で出てきたサイトから、登録の必要がなく、無料であるという条件のサイトを選び出す作業は、通常は行わない作業である。つまり、掲載されている例題は、一見、日常的な生活場面に出てきそうな顔をしているけれども、実際には普通の人は遭遇しない状況となっているのである。だから、この課題をクリアーできない人が、きちんとした仕事探しのサイトにたどり着くこともあれば、この課題をクリアーした人が、条件は満たしているけれども、ブラックなサイトにはまることだってあり得るわけだ。 ITに限らず情報活用の大切な部分は、その情報の質のレベルを嗅ぎつけることにあるように思う。残念ながら、このテストは、そこには触れずに、単に条件にあうサイトを探すという論理パズルでしかない。 同じような事情は読解力の例題にも見られる。例題の一つは、ある仮想的な保育園のルール集を提示して、その上で子供を遅くとも何時までに保育園に連れて行かなければならないかを問うものである。ルールの中で時間が出て来る項目は ・お子さんを午前9時までに連れてきてください ・朝食は午前7時30分までご用意しております。 の2項目で、知能検査的には午前9時が答えになる。でも、それは家で朝食を食べる子供の話だ。もし回答者が保育園で子供に朝食を食べさせるつもりだったら、午前7時30分より前に保育園に連れて行かなければいけない。このような思考から7時30分と答える人がいても不思議ではない。そして、その人の文脈ではそれが正解だ。そしてまた、この国の普通の生活を考えると、保育園の先生が「9時とは書いてあるけれど、少しおくれても大丈夫ですよ」なんて、さらっと言うこともよくあるだろうと思う。こういう環境で過ごしている人にとっては、規則を読んで、それを杓子定規に守ることより、先生と適当なコミュニケーションを取る方が重要な能力のはずだ。 もちろん、それは設問で聞かれていることではないという反論がでるのは承知している。しかし、大人の生活場面における思考を測定したいのなら、その場面に適した問題を出さなければならないはずだ。シオドーラ・クローバーの「イシ」の中だったと思うのだけれど、ある学者がイシが数を数えられるか試した結果として、イシには数を数える能力がないと判断された後で、イシが物の数を数えている場面に遭遇する話がある。イシにとっては学者の試みは無意味なものであったために答えをしていなかったのだ。つまり、設問が悪いと、その人の能力を測定することにはならないのである。 今回の例題を見ていると、テレビに出て来る漢字や雑学の知識を問う番組よりは、遙かに生活に関わるものであるのは確かだとしても、知能テストに近い論理パズル的なもので、日常的な行動基準からはずいぶんと離れたものである印象が強い。そういう意味では、この試験の世界規模の結果が出た時点で、その結果を横目に見ながら「ああ、そうですか」とスルーするのが、知性をもった人間のとるべき正しい態度だろうと思う。逆に言えば、このテストに対する文部科学省や報道機関等の応答を見ることにより、かれらの知性の程度が再確認されることになるであろう。
by zam20f2
| 2011-08-01 07:59
| 文系
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