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地上8000キロの凹面鏡

「にじ」創刊号の表表紙は地球を虫眼鏡で焼いているような妙な絵になっている。
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雑誌の表紙としては、あまりにも普通ではない絵柄なわけだけれども、本文中の表紙解説を読むと、これは第2次世界大戦中にドイツで計画された、宇宙鏡による地上攻撃の図なのである。

すこし前に紹介した創刊号の藤田の編集後記には、大戦に対する反省があるわけだけれども、それは、社会的なことがらや直接的な兵器に向いていて、その背後にある科学技術には向いていないようだ。実際、創刊号に掲載されている「時速3000km」はロケットによる大陸間の旅行を意識した物なのだけれども、その基礎となるロケット技術はV2号として戦争に使われたものの流れを持っているわけで、それを素通りしているところは、科学への素朴な期待が強いように感じられる。


さて、本文によると、戦時中にドイツには、V2等のロケットを使って、ミラーの部品を高度8000Kmまであげて、そこに直径1500mの凹面鏡を作り、それで敵国を攻撃することを考えていたらしい。もっとも、解説では、それを紹介した後に、この条件では、太陽の像の大きさが直径80Km程度になるので、都市を焼くことはできないはずだとつながっていく。

確かに、直径1500mの鏡で集められた光が80Km程度に拡がってしまっては、夜間の安眠妨害はできるかもしれないけれど、地表を焼き払うことは望みようもない。もちろん、鏡の直径を大きくすれば、都市を焼き払うだけの光は集められる。太陽定数が平米あたり約1KW。1mm四方だと1mW程度だ。レーザーで物を焼くことを考えると、数百mW程度で煙が上がるので、だいたい100倍の強度にできれば都市を焼けるはずだ。そのために必要な直径は面積比で太陽像の100倍だから約800kmになる。この大きさのミラーを作るのに必要な年月を考えるとめまいがしてくる。

もし、ミラーの高度が低ければ、太陽光はより小さな領域に集光する。高度800kmならおおよそ8kmになる。しかし、高度が低すぎると、鏡が地球の裏側に入ったときには地球の陰になってしまう。一方、昼間の側にいては、鏡は地球に陰を作ることはできても、集光点を作るのは困難だ。

というわけで、どうも、宇宙鏡で地上の都市を攻撃するのはかなり絵空事でしかないようだ。

表紙の解説では、実は、鏡によってローマ艦隊を焼いたという伝説も紹介されていて、上記のような考察から、この伝説も怪しい物であるという結論で終わっている。この伝説の紹介では「17世紀にローマの船体によって包囲されたキルケルの市民が」などと、どこから拾ってきたのか分からない記述があって、頭を悩ませているのだけれども、それでも、アルキメデスによる艦隊焼き払いの話を、計算もせずに疑っていなかった身としては、反省をせまられる結論なのであった。
by ZAM20F2 | 2012-08-11 13:27 | 科学系 | Comments(0)
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