お台所の研究はガスコンロ(これも都会だけのものだと思う)でお湯を沸かす時に、ガスの量と空気の量(この当時のガスコンロではデフォルトで空気量の調整も使用者の作業範囲だ。もちろんSIセンサーなんかはついていない)をどのように組み合わせたらお湯が早く沸くかという、なかなか実用的な研究からはじまっている。それにしても最初の挿絵の私のお台所は、この時代の平均とは思えないほどモダンな感じだ。ガスの研究について言えば、戦時下の本であるので、燃料節約に関連する話は重要だったのかもしれないけれど、この研究に母親が積極的な興味を持ち、アドバイスもしている。この本に限らず、シリーズの本に出てくる母親は理科的なことに知識と興味を持っているのだけれど、そんな母親は21世紀の極東の島国でも希な存在だろうと思う。 希な存在といえば、本の中にはガスを自宅で作っている家の話が出てくる。主人公の友達の女の子の家は個人病院なのだけれど、そこでは台所ゴミなどを発酵槽に入れてメタンガスを発生させているだ。わざわざ本に取り上げてみるところを見ると、希ではあっても、それなりの割合で存在したのだろうか。 さて、写真が上がっているところでは、本の中でカレー染めの話が出てくる。農山漁村文化協会に「日本の食事」シリーズという昭和初期の日常食を県単位で聞き書きで再現したものがあるのだけれど、その中でカレーライスが出てくるのは東京だけである。カレー粉は東京ではポピュラーだったかもしれないけれど、それ以外の地方では決してポピュラーな存在ではなかったのである。実際、高師附属の中学生が長野県に林間学校で出かけた時に、カレー粉を持って行って現地の人に調理を頼んだら、ご馳走だろうということで、現地のご馳走の方式:砂糖でたっぷりと甘みをつける:で調理されたという伝承がある。 カレーは戦争に出かけた多くの人が軍隊で経験して、彼らの復員後にひろまったらしいのだけれど、この本を眺めていると、都市部でクジラを食べるようになったのはこの頃であるようだ。冷凍技術が使えるようになって、いわゆる船団方式で遠方まで捕鯨に出かけられるようになったのがこの頃のようだ。とは言え、本の中まで宣伝されているところを見ると、必ずしも積極的には食べたいものではなかったような印象がある。実際、冷凍技術が発達したといっても、現在の目から見れば低レベルのもののはずで、戦後に随分とクジラを食べさせられた人に聞いても、美味しいからは遠いものであったようだ。 カレーやクジラなどの新顔が出てくる一方で、この本では炭焼の紹介に炭焼作業の写真まで使って力をいれている。都会ではガスが入ってたとはいえ、確かに炭と火鉢は高度成長までは家庭に普通にあったものであり、それが、どれだけ大変な作業の上に使われているかは燃料を大切にするという観点から必要だったのかもしれない。もっとも、農家の囲炉裏などでは炭より粗朶や薪が一般的な燃料として使われていたかもしれない。 都会とは言え、今よりは遙かに生のものに触れる機会はあったと思う。主人公のお嬢さんは、なかなか元気で、ニワトリの羽をむしるのも手伝うし、ハエの観察なども気味悪がらずに行っている。今に比べれば衛生的には問題があったわけだけれど、それに対して人間の方で心構えがあったような感じがする。そういえば、この本に、卵の鮮度などを光にかざしてみるという話が出ていた。単純な鮮度だけでなく、有精卵で中途半端に育ってしまったものなどは光を通さないので暗くなるらしい。こんな知恵は現在では不要なものになってしまっているけれども、確かに、子どものころに、近所の食料品店には卵を穴の上に乗っけて下からの明かりで照らしてチェックする道具があったのを見た覚えがある。それが無くなったのは東京オリンピックの頃だったと思うけれども、高度成長に合わせて流通がよくなり、またニワトリも養鶏場で飼育されるようになって、有精卵が紛れ込むようなこともなくなっていったのだと思う。そして、卵の賞味期限とやらを信じて、卵がどこまで食べられるかをチェックする手法が忘れ去られた世の中に移り変わってきたわけだ。
by ZAM20F2
| 2013-02-10 20:20
| 科学系
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