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岩波科学の本

岩波科学の本は1972年から1979年にかけて下記の25冊が発行された。(岩波書店児童書全目録 1913-1996 刊行順 より拾っている)

1972/05/20,遠山啓,関数を考える,1 数学教
1972/05/20,森本雅樹,望遠鏡をつくる人びと,2 天文
1972/05/20,西田誠,たねの生いたち,3 生物
1972/05/20,坂倉聖宣,ぼくらはガリレオ_-落下の法則の探求-,4 物理教育
1972/12/16,森主一,動物の生活リズム,5 生物
1972/12/16,白石芳一,湖の魚,6 生物
1973/07/27,古在由秀,地球をはかる,7 地学
1973/08/28,杉村新,大地の動きをさぐる,8 地学
1974/02/08,銀林浩_榊忠男,数は生きている,9 数学
1974/02/08,小野周,温度とはなにか,10 物理
1974/05/20,岩田久二雄,ハチの生活,11 生物
1974/06/29,野崎昭弘,πの話,12 数学
1975/05/26,中川鶴太郎,流れる固体,13 物理
1975/05/26,西村純,気球をとばす,14 宇宙天文
1975/12/10,鮎沢啓夫,カイコの病気とたたかう,15 応用生物
1975/12/10,日高敏隆,チョウはなぜ飛ぶか,16 生物
1976/06/17,江沢洋,だれが原子をみたか,17 物理
1977/03/14,星野芳郎,自然と人間_-瀬戸内海に生きる-,18 環境
1977/03/14,岡野彰祐,血液のはたらきを探る,19 生物医学
1978/01/27,大谷杉士,からだを守る,20 生物医学
1978/01/27,岩堀長慶_伊原信一,数と図形の話,21 数学
1978/03/29,竹内敬人,分子の形とはたらき,22 化学
1979/02/28,日比逸郎,第二の誕生,23 医学精神?
1979/02/28,藤本陽一,アンデスに宇宙線を追う,24 天文
1979/04/27,道家達将,日本の科学の夜明け,25 科学史

比較のために少国民シリーズを再び紹介すると

1941/12/15,中谷宇吉郎「雷の話」,1  気象地学
1941/12/15,有馬宏「トンネルを掘る話」,2 工学
1941/12/15,日高孝次「海流の話」,3 気象
1941/12/15,内田清之助「渡り鳥」,4 生物
1941/12/15,宇田道隆「海と魚」,5 気象生物学
1942/06/18,武藤勝彦「地図の話」,6 工学
1942/06/25,末広恭雄「魚の生活」,7 生物学
1942/07/19,大塚弥之助「山はどうして出来たか」,8 地学
1942/07/19,小幡重一「音とは何か」,9 物理
1943/05/15,矢野宗幹「蟻の世界」,10 生物
1943/06/20,中谷宇吉郎「寒い国」,11 環境
1944/04/05,大村一蔵「石油」,12  工学
1944/07/10,平等恵了「落下傘」,13 工学

1951/12/15,長谷部言人「日本人の祖先」,14 自然地理
1951/12/15,増山元三郎「数に語らせる_-新しい統計の話-」,15 数学
1952/04/25,安芸皎一「洪水の話」,16 気象
1952/07/25,武藤勝彦「地図の話_改訂版」,17 工学
1952/07/25,細井輝彦「蚊のいない国」,18 応用生物
1952/10/01,関口鯉吉「私たちの太陽」,19 天文
1953/01/05,津田左右吉「日本の稲」,20 応用生物
1953/09/15,和島誠一「大昔の人の生活_-瓜郷遺跡の発掘-」,21 考古学
1953/09/15,小林秋男「電灯の話」,22 工学
1954/03/20,桑原万寿太郎「ミツバチの世界」,23 生物

とこちらは戦後の空白をはさんで全23冊。シリーズの規模はほぼ同等である。本の最後に記した分野名は、勝手につけたものだし、読んでいないものもタイトルから勝手につけているけれど、少国民が工学的なものも含んでいるのに対して、科学の本はタイトルが科学であるだけあって、工学的なものはない。その一方で、少国民に比べると物理的な内容が科学の本では、より扱われるようになっている。また、少国民と科学の本を通して、化学系はあまり存在していない。


シリーズの総ての本を調べたわけではないけれども、いくつかの本を見た感想としては、少国民のためにの方が関連する分野のことや、歴史的なことも含めた俯瞰的な要素が強いのに対して、科学の本の方が、テーマを絞った内容になっている。もちろん、例外がないわけではなく、中谷宇吉郎の雷の話は、非常に限られたテーマに対して科学の進み方を交えながら話をしており、「大地の動きを探る」の進み方と似た部分はある。また、少国民のためにでは、複数の本の間の連携が考えられているものがあるのに対して、科学の本は江沢さんの本に中川さんや板倉さんの本への言及がみられるものの、全体に独立性が高いようだ。

少国民が刊行された時代には、科学や工学に対しては素朴な期待のみが存在していたのに対して、科学の本が刊行された1970年代には、公害や放射能汚染などが知られており、科学や工学の負の面も意識されるようになっている。科学の本のラインアップを見てみると、これらの問題に繋がるような内容は(星野さんの本はあるけれど)含まれていないように見える。

科学の本の対象読者は少国民シリーズより上に設定されてはいるけれども、科学の本が少国民に代わるものとして企画されたのは間違いないだろうと思う。そして、内容の変化を引き起こした一つの原因は俯瞰的に物事をかける書き手の減少もあるのではないかと思う。研究方法が高度化して細分化するに従って幅広い分野を俯瞰的に扱える研究者が少なくなり、それぞれの専門に関する内容を扱うのが手一杯になっていったような気がしている。もちろん、読者側の要望もあるのかもしれないけれど、俯瞰的な内容の本は、最初の一歩として需要が有り続けるはずのもので、特にこの年代に需要がなくなったような気がしない。
書き手の変化は、自然の休刊とも関係する話になるだろうと思う。



by ZAM20F2 | 2015-07-09 21:04 | 文系 | Comments(0)
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