一般に回折格子分光器の特性は入射偏光により異なっている。楢ノ木技研のezSpectra 815Vの分光ユニットは回折格子分光器なので、ezSpectra 815Vの出力特性には入射偏光依存性があると予想される。そこで、入射偏光による特性の違いを眺めてみることにした。手近にある偏光光源としては液晶ディスプレイが使える。液晶ディスプレイでもスマートフォンやタブレットでは出射が直線偏光でないものもあるが、テレビやコンピュータディスプレイはまず直線偏光である。
測定例は、ノートPCの白色にした画面を測定したもの。分光器を90度回している。この測定で一つだけ注意が必要なのは、TNタイプのディスプレイだと偏光が45度方向なので、分光器を0度と90度で測定すると、ほぼ同じスペクトルが得られてしまうこと。測定の前に、その辺に転がっている偏光素子で偏光の向きを確認しておく必要がある。偏光子がないなら……ディスプレイに白色画面を広げてハイディンガーのブラシを見ればよい。 ezSpectra 815Vのスペクトル測定では、ピーク値を1に規格化してくれる親切モードもある。しかし、それだと2つの測定結果の相対感度比が分らなくなる。ここでは、規格化なしのモードで表示している。図をみると、青色付近は感度は同程度だが、長波長側はだいぶ異なっている。 長波長側の感度が低い偏光では色温度が高く測定されているはずである。そこで、演色性評価モードで2つの方向で色温度を測ってみると、赤のスペクトルが強い方で5900K、弱い方で8200Kだった。他のディスプレイでも試してみたけれど、それぞれ5300Kと8300K、4800Kと6700Kという結果になった。いずれも、誤差とは言えない大きな違いとなっている。この分光器で液晶ディスプレイの色温度を評価する時には注意が必要だ。 色再現域の評価に関しては、はR、G、Bの一つの色だけ点灯してそのスペクトルから色座標のxy値を求める。この時は、xy値の計算に関わるスペクトル範囲は狭いので偏光方向による誤差は小さく問題にならないだろうと思う。 色温度にしろ、色再現域にしろ、誤差を減らしたいなら、分光器の一辺を偏光に対して45度方向に傾けて測定すると良いだろう。この角度で最初のディスプレイの色温度は6700Kと出てきた。このやり方は分光がらみの実験技術の本にも書いてある話だ。こうすれば、両方の偏光特性の影響が平均される。ezSpectra 815Vの校正は無偏光で行われているだろうから、入射直線偏光を2方向に同じだけ振り分けてやれば無偏光の時と同じ結果を与えるはずだ。 偏光による測定誤差を防ぐもう一つは、入射口の前に偏光解消光学系をつけること。たとえば、光ファイバーで入力するUSB接続分光器は光ファイバーで偏光が乱れるために、ファイバーに偏光を入れても大丈夫であることが多い。ただ、一般に偏光をきちんと解消するのは楽ではない。 ところで、スペクトル測定データを注意深く眺めると、短波長の端と長波長の端の浮上がりレベルが、偏光方向で異なっている。一方の偏光ではほぼ見られないことと合わせて、これらの浮上がりは、実際にこの波長の光によるものではなく、「迷光」(他の波長の光の影響)によるものと考えられる。測定結果は迷光にも偏光依存性があることを示している。実は、非偏光で迷光について、少し測定していたのだけれど、この結果を見て、偏光で測定しなおさないといけないかなぁと思案している。
by ZAM20F2
| 2017-06-16 20:59
| 科学系
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